午後のカフェに、やわらかな光が差し込む。
その窓辺で、しずくは静かにラテを淹れていた。
翡翠色のリボンが揺れ、白いエプロンが光を反射する。
誰もが彼女を、少し不思議な雰囲気のウェイトレスだと思っている。
まさか、彼女が“時を超えてきた存在”だとは、誰も知らない。
70年前、彼女は大学で研究に没頭する若き科学者だった。
そして、同じ研究室にいた彼と、静かに想いを育んでいた。
けれど、ある日、彼は事故で命を落とした。
その日、彼は言ったのだ。
「また、会おう。きっと、どこかで。」
その言葉が、彼女の時間を止めた。
彼の死を受け入れられなかった彼女は、研究を続けた。
そして、時を超える術を手に入れた。
彼の魂が、どこかで再び生まれ変わると信じて。
時代が変わり、人々が変わり、街の景色も変わった。
それでも彼女は、変わらなかった。 変われなかった。
彼を探すために。
そして、ある日。 この街の片隅で、彼女は見つけた。
彼に似た青年を。 年齢も、声も、記憶も違う。
けれど、ふとした笑顔や、コーヒーの好み、そして本を読む姿が、あまりにも懐かしかった。
彼女は確信しているわけではない。 ただ、心がそう告げている。
「また、会おう」と言った彼の言葉が、今ここで、現実になろうとしているのだと。
彼女は彼に近づかない。 彼の人生を乱すことはできない。
でも、そばにいたい。
せめて、彼の記憶の片隅に、やさしい香りとして残れたら。
今日も、彼女はラテを淹れる。
ほんのり甘く、やさしい味わいの一杯を。
それは、時を超えても消えなかった、たったひとつの約束の味。