4話目:試練の丘 ― 羊が逃げた日

夕暮れの草原に、風が吹いた。
空には重たい雲が広がり、
牧場は静かに夜の気配をまとい始めていた。

訓練を終えたぼくは、
小屋のそばでひと休みしていた。

そのとき──
パキンッ!という音とともに、
羊たちの鳴き声が風に混じった。

柵が……壊れてる!?
羊たちが、外に出ていく!

「おじさんは、先輩犬と出かけてる……」
「じゃあ、ぼくが……やらなきゃ!」

ぼくは走った。
草をかき分け、羊たちの前に回り込む。

吠えない。
ただ、目で伝える。
「こっちだよ。戻ろう。」

羊たちは、ぼくを見た。
一瞬、戸惑ったように立ち止まり、
それから、ゆっくりと方向を変えた。

小屋の明かりが見える。
ぼくは、羊たちを導いた。

“群れ”を守るのは、ぼくのしごと。
誰も見ていなくても、ぼくはやる。

その夜、
ぼくは少しだけ、大人になった気がした。

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