2話目:風のにおい ― 初めての羊たち

草のにおい。
風のにおい。
そして、どこか懐かしい、もこもこのにおい。
ぼくは、はじめて“羊”という生き物を見た。
白くて、ふわふわで、のんびりしていて──
でも、どこか落ち着きがなくて、
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
「こっちだよ!」
ぼくは、思わず走り出した。
羊たちの前に回り込んで、吠えてみた。
でも、羊たちはびくともせず、
むしろ、ぼくを見てモグモグ草を食べ続けた。
そのとき──
風の向こうから、黒と白の影がすっと現れた。
先輩犬だった。
彼は、何も言わずに走り出した。
羊のまわりを大きく回り、
静かに、でも確実に、群れを動かしていく。
「こうやってやるんだ。」
その動きは、まるで風のようだった。
吠えもせず、ただ目と動きだけで、
羊たちは自然と道を変えていく。
ぼくは、ただ見とれていた。
「すごい……」
そのとき、ぼくの中で何かが動いた。
“群れ”って、ただの集まりじゃない。
守るべきもの。導くべきもの。
そして、ぼくのしごとの相手なんだ。
風が、ぼくの耳をくすぐった。
その風の中に、
ぼくの未来の匂いが混じっていた。